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例)研究発表 生命科学科
[2020/02/06]
「多発性硬化症の新たな病態メカニズムを解明 」(神経内科学分野  吉良潤一教授)

 

 
多発性硬化症の新たな病態メカニズムを解明
~ギャップ結合蛋白が中枢グリア炎症を制御~ 

 

  
  九州大学大学院医学研究院の吉良潤一教授、山﨑亮准教授、 山口浩雄共同研究員、大学院医学府博士課程 4 年の趙奕楠、博士課程 1 年の永田諭らの研究グループは、二次進行形多発性硬化症の新たな病態メカニズムとして、脳・脊髄のグリア細胞※1同士をつなぐギャップ結合※2蛋白がグリア炎症※3を制御しており、これらの機能異常が多発性硬化症の進行に大きく関わっていることを発見しました。
  多発性硬化症は、国指定の難病で、原因は解明されておらず根治療法はありません。近年、増加が著しく、我が国で約 2 万 5 千人、世界では 250 万人以上の患者さんがいます。自己免疫機序により脳や脊髄、視神経といった中枢神経の神経突起を絶縁するビニールのように取り巻いている髄鞘が繰り返し障害され、感覚低下や運動麻痺、視力障害、言語障害、歩行障害、排尿・排便障害などの様々な神経症状を引き起こします。この病気は 1:3 の割合で女性に多く、20 歳代から30 歳代の若年成人が侵されやすく、いったん発病すると終生罹患するため、大きな社会問題となっています。
  多発性硬化症は、発症初期は症状が自然に良くなります(「再発寛解型」という。)が、発症 10年後ごろから症状が治らなくなり、やがて再発していないのに症状が次第に進行する「二次進行型」に移行します。現在、再発寛解型の再発を減らす薬は保険診療で使用できますが、二次進行形に移行すると、そのメカニズムがよくわかっていないため有効な治療薬が開発されていませんでした。
  今回、研究グループは、多発硬化症のモデルマウスで中枢神経の髄鞘を産生するオリゴデンドログリア※4のギャップ結合蛋白コネキシン※547 を特異的に喪失させると、中枢神経のグリア細胞が異常に活性化して、末梢血から自己免疫細胞を呼び込み、髄鞘が破壊されることで、二次進行型と同様の症状と経過を示すことを世界で初めて発見しました。マウスでみられたグリア細胞の活性化やコネキシン蛋白の発現変動はこれまでも多発性硬化症患者さんの脳・脊髄の解剖で見られていましたが、これまでその原因や意義は不明でした。
  この研究により、コネキシン蛋白の機能を修飾することで、これまでになかった二次進行形多発性硬化症の新規治療薬が開発できる可能性が高くなりました。既に同研究グループではコネキシン機能を修飾するいくつかの薬剤の効果がこのマウスモデルを使ってみられています。
  本研究成果は、2020 年 1 月 13 日(月)付で米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載されました。
  本研究は、AMED の課題番号 JP19ek0109308h0002 の支援を受けました。


研究者からひとこと:
この結果をも とに、従来治療法のなかった二次進 行型多発性硬化症の新しい治療薬が 開発できつつあります。できるだけ 早く多発性硬化症の患者さんの治療 に役立てたいと考えています。 (写真:吉良教授)
(参考図)二次進行型多発性硬化症の新たに発見された機序
中枢神経のグリア細胞(オリゴデンドログリア)のコネキシン蛋白の機能を阻害すると、アストログリア※6やミクログリア※7の炎症性活性化を介して末梢血からの白血球侵入を誘発し、さらに中枢神経の炎症が増幅される。
 

 


   
   【お問い合わせ】 大学院医学研究院 教授 吉良 潤一
    電話:092-642-5340 FAX:092-642-5352 Mail:kira@neuro.med.kyushu-u.ac.jp
                                                 ※(a)を@に置きかえてメールをご送信ください。

 


※1 グ リ ア 細 胞: 「膠細胞」とも呼ばれる、中枢神経系(脳や脊髄)における非神経細胞の総称。
主にアストログリア(星状膠細胞)、オリゴデンドログリア(希突起膠細胞)、ミクログリア(小膠細胞)からなり、それぞれ異なるメカニズムで神経細胞の働きを助けている。
    
※2 ギ ャ ッ プ 結 合: 体細胞同士をつなぐ結合様式の一つ。心臓や肝臓、皮膚などの固形組織は細胞同士が結合して臓器を形成するが、結合した細胞同士は互いに情報伝達を行っている。そのための物質や信号のやり取りを、ギャップ結合を介して行っていると考えられている。中枢神経系ではアストログリアとオリゴデンドログリアがギャップ結合で結合している。神経細胞のギャップ結合は神経細胞同士を結合する。ミクログリアは他の細胞とギャップ結合を形成しない。
    
※3 グ リ ア 炎 症: 何らかの要因により神経組織が障害されると、その部分を修復するため、もし
くは異常物質を除去するため、上述のグリア細胞が活性化する。これを総称し
て「グリア炎症(glial inflammation)」と呼ぶ。
 
※4 オ リ ゴデ ン ド ログ リ ア: 希突起膠細胞。神経細胞の軸索(細胞体から伸びる情報伝達線維)を取り囲む、髄鞘と呼ばれる絶縁組織を形成する細胞。神経同士の効率的な伝導を助けるほか、近年では神経細胞自体を栄養する作用など、多種多様な作用が判明しつつある。
 
※1 グ リ ア 細 胞: ※5 コ ネ キ シ ン:ギャップ結合を形成するタンパク質。その分子量により、ヒトではコネキシン 23から 62 まで、21 種類のコネキシンが同定されている。中枢神経では、アストログリアがコネキシン 30 と 43、オリゴデンドログリアがコネキシン 26、32 および47、ミクログリアがコネキシン 43、神経細胞がコネキシン 36 を発現している。
 
※6 ア ス ト ロ グ リ ア: 星状膠細胞。神経細胞の隙間を埋めるように存在する、綿状の非常に細かい細胞突起を持つ細胞。神経組織の支持、栄養、その他の正常機能維持機能を持つ。
 
※7 ミ ク ロ グ リ ア: 小膠細胞。中枢組織の中で、唯一血液の白血球と同じ起源をもつ免疫細胞の一種。通常は神経組織の不要物質(細胞間隙のゴミ)の除去を行っているが、病原体などが中枢組織に侵入した際は貪食細胞となりこれらの病原体を貪食除去すると考えられている。異常時に活性化すると炎症性物質を放出し、病原体のみならず神経組織の障害も起こす可能性があり、諸刃の剣とも言える。

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