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例)研究発表 生命科学科
[2020/03/05]
「自然免疫の活性化による骨肉腫の進行抑制」(整形外科学分野 松本嘉寛准教授)教授)

 

 
自然免疫の活性化による骨肉腫の進行抑制
~腫瘍免疫に基づいた、骨肉腫に対する新規治療法の開発を目指して~  

 

  
  骨肉腫※1 は主に若年者の骨に発生するがんで肺に転移しやすく、肺に転移した場合の治療法は限られているため、新しい治療法の開発が求められています。近年免疫※2 を強化して、がんの進行を抑制する治療法(腫瘍免疫療法)が注目を浴びています。腫瘍免疫療法は、いくつかのがんに対しては非常に有効ですが、骨肉腫に対する有効性は未だ確認されておらず、更なる研究が必要とされています。
  TLR4(トールライクレセプター4)※3とは誰もが持っている受容体で、体に細菌が侵入した際などに免疫を活性化して細菌を排除する、「自然免疫」と呼ばれる重要なメカニズムの鍵となる分子の一つです。九州大学大学院医学研究院の松本嘉寛准教授および医学系学府博士課程 4 年の八尋健一郎大学院生の研究グループは、この TLR4 に着目して研究を行い、TLR4 を刺激、自然免疫を活性化することで CD8⁺T 細胞※4が骨肉腫の進行を抑制することを世界に先駆けて報告しました。
  TLR4 を刺激する LPS(リポ多糖)※5をマウスに投与したところ、正常な(野生型)マウスでは TLR4刺激に伴い骨肉腫の増殖と肺転移が抑制され、結果的に生存期間が延長されました。しかし、TLR4の働きが遺伝的に失われているマウスではその効果は得られませんでした。野生型マウスでは TLR4 刺激により、腫瘍に対する CD8⁺T 細胞の活発な活動が認められました。またマウスから CD8⁺T 細胞を除去してしまうと、TLR4 刺激による骨肉腫の進行抑制効果がなくなってしまったことから、TLR4 の刺激、即ち自然免疫活性化による骨肉腫の進行抑制には、CD8⁺T
細胞が重要な役割を果たしていることがわかりました。さらに実際にヒトの骨肉腫でも、CD8⁺T細胞の活動が活発な患者さんは、そうでない患者さんと比べて生存期間がより長いことを確認しました。
  これらの研究結果は、骨肉腫に対しても腫瘍免疫治療、特に自然免疫の活性化が有効である可能性を示しており、骨肉腫における新規治療法の開発に繋がることが期待されます。
  本研究は 2020 年 2 月 12 日(水)(日本時間)に「Cancer Immunology, Immunotherapy 誌」でオンライン公開されました。


研究者からひとこと:骨肉腫は稀な腫瘍ですが、今なお多くの子供達を苦しめている非常に厄介な腫瘍です。この研究が骨肉腫に対する新しい治療法へと繋がり、1 人でも多くの骨肉腫患者さんを助けられるよう、引き続き研究を続けていきたいと思います。(八尋)
 

 


   
 【お問い合わせ】 大学院医学研究院 整形外科学分野 准教授 松本 嘉寛
  Mail: ymatsu(a)ortho.med.kyushu-u.ac.jp
          ※(a)を@に置きかえてメールをご送信ください。

 


【用語解説】
※1 骨肉腫
  骨に発生する悪性腫瘍の中で最も多い腫瘍です。主に 15 歳前後の若年者の太ももなどに発生します。治療法としては腫瘍の切除や抗癌剤治療などが行われ、時には足の切断に至ることもあります。近年の治療法の進歩により治癒可能となる割合が増えましたが、肺転移が進行した場合、治療は困難です。
    
※2 免疫
  外から侵入してきた病原体から体を守るためのシステムです。様々な細胞が複雑に作用し合うことで、常に我々の体を守ってくれています。今までは細菌やウイルスに対する防御のみが注目されていましたが、近年がんからも我々の体を守ってくれていることが分かってきました。
    
※3 TLR(Toll like receptor 、トールライクレセプター)
  元々はハエの研究で発見されたもので、動物に限らず、植物や昆虫などにも存在しています。特にTLR4 は LPS(Lipopolysaccharide、リポ多糖)と呼ばれる、細菌に存在する物質に反応して、免疫を活性化させ細菌を排除し体を守る役目を果たしています。近年これらの TLR とがんとの関連性を示す報告が増えています。実際に海外では、TLR を活性化させる薬剤の治験が、いくつかのがんに対して行われています。
    
※4 CD8⁺T 細胞
 
あらゆる病原体から体を守るのに重要な細胞の一つが T 細胞と呼ばれている細胞です。T 細胞には大きく分けて 2 種類存在しており、一つが CD4+T 細胞と呼ばれ免疫の司令塔として役割を果たしています。もう一つは CD8⁺T 細胞と呼ばれており、病原体や癌細胞などの体内の異物を消滅させる役割を果たしています。
    
※5 LPS(Lipopolysaccharide、リポ多糖)
  一部の細菌の細胞壁を構成する物質です。免疫を活性化させることで、人体に様々な作用を引き起こすことが近年分かってきています。
    
  
【謝辞】
  本研究は日本学術振興会科学研究費補助金(18K16627、19K16802、18K09067)、整形災害外科学研究助成財団(no.332)、福岡県すこやか健康事業団がん研究助成金からの支援を受けて行われました。
  
【論文情報】
論文名: Activation of TLR4 signaling inhibits progression of osteosarcoma by stimulating
CD8-positive cytotoxic lymphocytes
著者名: Kenichiro Yahiro, Yoshihiro Matsumoto, Hisakata Yamada, Makoto Endo, Nokitaka Setsu,
Toshifumi Fujiwara, Makoto Nakagawa, Atsushi Kimura, Eijiro Shimada, Seiji Okada,
Yoshinao Oda and Yasuharu Nakashima.
 
掲載誌: Cancer Immunology, Immunotherapy
D O I: 10.1007/s00262-020-02508-9
 
  
【研究者】
  

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