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例)研究発表 生命科学科
[2016/10/25]
視覚情報処理を行うための最小の機能単位構造が大脳に存在することを解明 (分子生理学分野 大木 研一教授)
視覚情報処理を行うための最小の機能単位構造が大脳に存在することを解明
 
  九州大学大学院医学研究院・東京大学大学院医学系研究科の大木研一教授、東京大学大学院医学系研究科の根東覚助教の研究グループは、視覚情報処理を行うための機能的単位構造がマウスの大脳に存在するかどうかを調べました。大脳は、複雑でかつ大量の情報を逐次処理していますが、これらの情報を素早く正確に行うためにヒトや高等哺乳類には、マクロコラムと呼ばれる単位構造が存在しています。マウスもヒトと同じように物を見ていると考えられますが、マウスの視覚に関係する大脳には同様なマクロコラムがないことが分かっていました。今回の研究では、高速かつ 3 次元に 2 光子カルシウムイメージングが可能な顕微鏡を開発し、生きたマウスの脳から視覚応答を計測しました。その結果、マウスの脳には方位選択性と呼ばれる視覚情報に対して、高等哺乳類に見られるコラムよりも小さな「ミニコラム」が存在することを発見しました。「ミニコラム」は最小の機能単位構造と考えられ、哺乳類に共通な視覚情報処理のメカニズムの解明につながることが期待されます。
  本研究結果は 2016 年 10 月 21 日(金)午前 10 時(英国時間)に「Nature Communications」にオンライン発表されました。
 
(図 1)高速 3 次元 2 光子励起顕微鏡。視覚刺激を与えたときの神経細胞の活動を、カルシウム指示薬を用いて 3 次元的に記録した。   (図 2)(a,b)方位選択性について 3 次元高速カルシウムイメージングを細胞体(a)と樹状突起(b)に対して行い、方位選択性の 3 次元カラーマップを作成。(c)細胞体の 3 次元カラーマップを横から 2 次元で見ると、方位選択性が縦 1 列に揃っている場合と揃っていない場合が見られた。(d)ミニコラムには、方位選択性が揃っているものと、揃っていないものがあった。詳細な解析の結果、全体の約3割のミニコラムで方位選択性が揃っていることが分かった。

   
研究グループからひとこと:本研究グループでは、視覚の研究を主に遺伝子操作技術が進んでいるマウスをモデルとして、最新のイメージング技術を使って行っています。その結果、基本的な視覚情報処理のメカニズムはヒトなどと共通していることが分かってきています。

【お問い合わせ】 九州大学大学院医学研究院/東京大学大学院医学系研究科 教授 大木研一
  (※クロスアポイントメント制度による)
  電話:03-5841-3459 FAX:03-5841-3325 Mail:kohki(a)m.u-tokyo.ac.jp
   
      (a)は@に置きかえてメールをご送信ください 
  
  東京大学院医学系研究科 助教 根東 覚
  電話:03-5841-3457 FAX:03-5841-3325 Mail:skondo(a)m.u-tokyo.ac.jp
      (a)は@に置きかえてメールをご送信ください 


■背 景
  規則正しい構造や構造原理の下に、脳の神経回路は効率的な情報処理を行っていると考えられています。例えば、視覚情報処理を行う最初の大脳は一次視覚野(※1)と呼ばれていますが、ここには左右の目の情報を分けて受け取る構造(眼優位性コラム)や同じ傾きを持つ線に反応する構造(方位選択性コラム(※2))などが存在しています。このようなマクロコラム構造は、私たちヒトや、サルやネコなどの高等哺乳類には見られますが、マウスの視覚野には存在しません。一方で、マウスも高等哺乳類と同様に左右の目で物を見たり、線の傾きを見ていることが分かっています。このような構造の違いは、脳のサイズがマウスは小さいということが原因の1つとも考えられます。マウスには高等哺乳類に見られるマクロコラム構造に対応する別の構造、例えば脳のサイズに比例したより小さなスケールのコラム構造があるかもしれないと考えられますが、まだ調べられていませんでした。もし存在すれば、その小さなコラム構造は、左右の目で物を見たり線の傾きを知覚するのに重要な哺乳類に共通な基本構造と考えることができるかもしれません。また、高等哺乳類に見られるマクロコラム構造は、小さなスケールのコラム構造が集まったものと考えれば、小さなコラム構造は視覚情報処理のための最小機能単位構造と考えられます。
  高等哺乳類に見られる解剖学的な構造に、ミニコラムとミクロコラムが知られています。いずれも大脳を表面から深部に向かって縦に貫く構造ですが、ミニコラムは細胞が縦一列に並ぶ構造、マイクロコラムは複数の細胞由来の縦に走る樹状突起の束構造を指します。いずれも大脳の解剖学的な最小単位構造と考えられています。今回の研究では、マウスの一次視覚野に存在する解剖学的な最小単位構造が単なる解剖学的な構造ではなく、機能的な単位として働いているかどうかを検証しました。
  
■内 容
  本研究グループは先ず、3 次元の画像を高速に取得出来る 2 光子励起顕微鏡のシステムを開発しました(図 1)。このシステムでは、2 次元の平面画像を高速に縦方向に何枚も撮影することで 3 次元画像を再構築することができます。ミニコラムやミクロコラムといった構造は 3 次元的に配列しているため、多数の神経細胞の視覚応答を立体的にイメージングする必要があるためです。神経細胞の活動を記録するために、OGB1 と呼ばれるカルシウム感受性色素を多数の細胞に負荷しました。OGB1 から出る緑色の蛍光を見ることで、視覚刺激に対する神経活動を記録することができます。ミニコラムやミクロコラム構造の機能的検証として、方位選択性について調べました。
  次に、マウスに視覚刺激を提示して視覚応答を記録し 3 次元的に解析しました。その結果、3 次元マップは一見するとさまざまな方位選択性を持つ細胞(ミニコラムの解析)や樹状突起(ミクロコラムの解析)がランダムに分布しているように見えます(図 2a,b)。しかしながら、細胞が縦 1 列に並ぶミニコラムを 1 つ 1 つ抽出して詳しく解析すると、同一ミニコラムに属する細胞が類似した方位選択性を持つ傾向があり、約 3 割のミニコラムでは、方位選択性が揃っていることを発見しました(図 2c)。この傾向は同一ミニコラムだけに限局し、隣のミニコラム間では傾向が見られませんでした。このような方位選択性が似た細胞が縦に並ぶ構造は、ミニコラムよりもはるかにサイズの大きな方位選択性コラム(マクロコラム)として高等哺乳類に見られます。またミクロコラムについても、方位選択性については、束内の樹状突起の方位選択性は類似している傾向が見られ、隣の束との間には類似性が見られないという、ミニコラムと同様の結果が得られました。以上より、ミニコラムは方位選択性について機能単位として働いていることが示唆されました(図 2d)。
  
■意 義
  ミニコラムやミクロコラムに、方位選択性が似た細胞が集まることの機能的な意義については分かっていません。目からの情報は、視床の外側膝状体と呼ばれる場所を経由して一次視覚野に送られます。方位選択性は、一次視覚野で初めて現れる神経細胞の性質と考えられています。方位選択性コラムを持つ高等哺乳類では、方位選択性コラム構造は一次視覚野の神経細胞が方位選択性を持つ仕組みと関係していると考えられています。方位選択性コラム構造の中の神経回路で何らかの計算が行われて方位選択性が生じると考えられますが、ミニコラムやミクロコラムといった構造もこのような計算に役立っている可能性があります。
 
  
■今後の展開
  今回の発見には、まだ解明しなければならないいくつかの課題が残されています。方位選択性が揃っているミニコラムやミクロコラムはいつどのようにしてできるのか、視覚情報処理における役割はなにかを調べる必要があります。今後マウスをモデル動物として視覚に関する研究を積み上げていくことで、ヒトの視覚機能のメカニズムやその発達の理解につながることが期待されます。 
  
■用語解説
(※1)一次視覚野
大脳皮質の後頭葉にあり、視覚に直接関係する部分を視覚野と呼ぶ。複数の視覚野が存在するが、その中でも最初に視覚情報を受け取る領域を一次視覚野と呼ぶ。
  
(※2)方位選択性コラム
ヒト、サル、ネコなど、高等哺乳類の大脳皮質の一次視覚野には、方位選択性が同じ細胞が集まって存在する方位選択性コラムが存在することが知られている。このコラムの存在は、方位選択性などの感覚情報を処理するために重要であると考えられてきたが、げっ歯類の一次視覚野にはないことが示されている。


■本研究について
  本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の戦略的創造推進事業(CREST)「脳神経回路の形成・動作原理の解明と制御技術の創出」(平成 27 年度より JST より移管)、「脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」(平成 27 年度より文科省より移管)、戦略的国際科学技術協力推進事業(SICP) 日独研究交流「計算論的神経科学」(平成 27 年度以降 JST より移管)、および文部科学省・科学研究費の支援を受けて行ったものです。
  
(※)クロスアポイントメント制度:
研究者が二つ以上の機関に雇用されつつ、一定のエフォート管理の下で、それぞれの機関における役割に応じて研究・開発および教育に従事することが可能な仕組み。 

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