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例)研究発表 生命科学科
[2017/10/25]
「細胞内におけるタンパク質-DNA 相互作用の全体像を捉える新しい方法を開発」(医化学分野 伊藤 隆司教授)


細胞内におけるタンパク質-DNA 相互作用の全体像を捉える新しい方法を開発

 
  九州大学大学院医学研究院医化学分野の梅山大地学術研究員(現:理化学研究所)と伊藤隆司教授は、細胞内におけるタンパク質-DNA相互作用の全体像を捉える新しい方法を開発しました。
  私たちの身体を形成している様々な細胞は、基本的に同一のゲノムDNAを持っていますが、ゲノム中の遺伝子を取捨選択して使うことによって、それぞれの個性を発揮したり環境変化に適応したりしています。この取捨選択を行うのがDNAに結合する転写因子(※1)やヒストン(※2)等のタンパク質です。したがって、ゲノムの働き方を包括的に理解するには、ゲノムDNA上のタンパク質結合部位を網羅的に明らかにする必要があります。そのために、細胞から単離した核にDNA切断酵素を働かせる方法が用いられています。しかし、これらの方法は、操作が煩雑な上に、核を単離する過程でDNAとタンパク質の相互作用が失われる危険性も有しています。
  これに対して、梅山博士と伊藤教授は、ジメチル硫酸(DMS)という細胞膜を通過してDNAをメチル化する化合物に着目しました。DMSを作用させた細胞からDNAを取り出して、メチル化部位で切断する反応を施してから次世代シーケンサ(※3)で分析すると、タンパク質の結合部位が切断を免れた場所として同定されました。DMS-seq と命名されたこの方法によって、核を単離せずに細胞内におけるタンパク質-DNA相互作用の全体像を明らかにすることが、初めて可能になりました。また、DNAを核内に収納する染色体の基本構造であるヌクレオソーム(※4)の中心位置を遺伝子操作なしに同定することにも初めて成功しました。DMS-seqは、様々な分野の研究を基礎から支える技術になることが期待されます。
  本成果は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業ユニットタイプ「エピゲノム研究に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出」研究開発領域における研究課題「ヒト消化器上皮細胞の標準エピゲノム解析と解析技術開発」(研究開発代表者:金井弥栄)および文部科学省科学研究費補助金によるもので2017年10月3日(火)12時(米国東部標準時(夏時間))に、国際学術雑誌「Cell Reports」のオンライン版に掲載されました。  
(参考図)
  細胞に添加されたDMSは細胞膜を通過して、核内のDNAをメチル化しますが、タンパク質の結合部位はメチル化を免れます。DMSを作用させた細胞から抽出したDNAに、メチル化部位を切断する反応を加えてから次世代シーケンサで解析すると、DNA上のタンパク質の相互作用部位を包括的に明らかにできます。転写因子の結合部位のみならず、非定型的クロマチン粒子やヌクレオソームの中心も検出されます。
研究者からひとこと:
生命科学の様々な分野における基礎的研究を支えるような独自の基盤技術や方法論の開発を心がけてゆきたいと思います。

  

  ■お問い合わせ先 大学院医学研究院 教授 伊藤 隆司
    電話:092-642-6095 FAX:092-642-2103   
  Mail: tito(at)med.kyushu-u.ac.jp
        ※(at)は@に置きかえてメールをご送信ください  

 

 
■背緯 
  ゲノムの働き方を包括的に理解するには、転写因子やヒストン等がゲノムDNA上のどこに結合しているのかを網羅的に明らかにする必要があります。特定の転写因子に着目して結合部位を網羅的に同定するには、クロマチン免疫沈降シーケンス法(ChIP-seq)(※5)という方法が用いられます。しかし、ChIP-seqは転写因子毎に解析する方法なので、解析すべき転写因子が予め分かっていないと使えませんし、それが明らかな場合でもその転写因子の結合部位しか知ることが出来ません。したがって、解析すべき転写因子が不明な場合や想定外の転写因子の関与も見落とさないためには、あらゆるタンパク質の結合部位を検出できるゲノムフットプリンティングというアプローチが必要になります。ゲノムフットプリンティングでは、それぞれの部位に結合しているタンパク質の正体までは分かりません。しかし、その部分のDNA配列から結合タンパク質を予測できることもあり、その場合にはChIP-seqを用いて予測を検証することも可能です。従来、ゲノムフットプリンティングには、細胞から単離した核に対してDNA分解酵素を働かせる方法が用いられてきました。しかし、これらの方法は、操作自体の難易度が高く、そもそも核を単離する過程でDNAとタンパク質の相互作用が変化或いは喪失する危険性もあるため、新しい方法の開発が求められていました。
 
  
■内容 
   我々は、核を取り出さずに、簡便かつ細胞内の状態をより正確に反映した形でゲノムフットプリンティングを行うため、ジメチル硫酸(DMS)に着目しました。DMSを2本鎖DNAに作用させるとグアニン(G)とアデニン(A)をメチル化しますが、タンパク質が結合している部位のGとAはメチル化を免れます。したがって、タンパク質結合部位をメチル化されない部分(フットプリント)として検出することが可能です。DMSは細胞膜を通過するので、培地にDMSを添加するだけで核内のゲノムDNAがメチル化されます。つまり、DMS は試験管内(in vitro)のみならず生体内(in vivo)でのフットプリンティングにも利用できます。実際、DMSによるin vivoフットプリンティングは、目的遺伝子領域をPCRで増幅する形で行われてきました。しかしながら、DMSで処理した細胞では、ゲノムDNA全体にフットプリントが形成されている訳ですから、その一部をPCRで取り出すのではなく、全部を次世代シーケンサで読み出すDMS-seqが成功すれば、核の単離を必要としない簡便でしかもin vivoの状態をより忠実に反映したゲノムフットプリンティングが実現する筈です。
   そこで我々は、出芽酵母をモデルにDMS-seqの開発に取り組みました。その結果、期待通りに転写因子の結合部位を検出できることが判りました。例えば、転写因子Abf1が結合しそうな配列(結合モチーフ)の周辺にはin vivoでDMS-seqのピークが検出され(図1A)、DMSフットプリントとして検出されたものはChIP-seqピークとして検出されたものとよく一致しました(図1B)。また、転写の開始点と終結点の近傍に存在することが最近注目されている非定型的なクロマチン粒子も検出できました。更に、定型的なクロマチン粒子であるヌクレオソームについては、その中心座標に対して DMSが高親和性を示すという予想外の発見がありました(図1C)。ヌクレオソームの両端近傍を検出するMNase-seq とは切断点の分布が完全に逆位相を示します。従来、ヌクレオソームの中心座標を直接的に決定するにはヒストン遺伝子群の改変に基づく化学的切断法しか手段がなく、この方法が適用できる生物はヒストン遺伝子の数が例外的に少ない生物に限定されていました。これに対して、DMS-seqは、遺伝子操作を必要としませんので、原理的にはヒトを含むあらゆる真核生物においてヌクレオソームの中心座標の決定に応用可能な初めての方法となりました。
   
図1. DMS-seq による転写因子結合とヌ クレオソーム中心の検出
A:DMS-seqは転写因子結合を検出できる。転写因子Abf1の結合モチーフ周辺にはin vivo でのみDMS-seqのシグナルがピークを形成する。
B:DMS-seqとChIP-seqの結果はよく一致する。DMSフットプリントとして検出されたAbf1結合モチーフはChIP-seq ピークとして検出されたものと有意に重なる。
C:DMSはヌクレオソーム中心を優先的に切断する。DMS-seqによる切断点の分布は、ヌクレオソーム中心を検出する化学切断法による切断点の分布と一致する一方、ヌクレオソームの両端周辺を切断する酵素マイクロコッカルヌクレアーゼ(MNase)による切断点の分布とはちょうど逆位相の関係を示す。
 
    
■今後の展開 
   今回の成果は、DMS-seqがゲノムフットプリンティングに利用可能であることと、既存手法にはないユニークさを持つことを示したものです。DMS-seqの実用性向上には更なる改良が必要ですし、データ解釈には既存ChIP-seqデータとの統合解析も重要になります。また、細胞内でヌクレオソーム中心となるDNAがタンパク質と結合していない状態でもDMS 感受性を示すことも判明し、この事実が示唆するDNA形状とヌクレオソーム配置の関係の解明も期待されます。こうして、細胞内におけるタンパク質-DNA相互作用の全体像が明らかになるにつれて、細胞の増殖分化や環境応答の仕組みの包括的な理解も深まってゆくでしょう。そして、その異常として疾患や病態を捉え直すことは、治療や予防を考える上においても重要な視点となることが期待されます。
   
■本研究について 
  本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業ユニットタイプ「エピゲノム研究に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出」研究開発領域における研究課題「ヒト消化器上皮細胞の標準エピゲノム解析と解析技術開発」(研究開発代表者:金井弥栄)および科学研究費補助金の挑戦的萌芽研究と新学術領域研究「代謝アダプテーションのトランスオミクス解析」による成果です。


■用語解説   
(※1)転写因子:DNAからRNAへの転写(遺伝子発現)を調節するタンパク質  
  
(※2)ヒストン:長大なゲノムDNA分子に結合して核内への収納を助ける小型の塩基性核タンパク質
  
(※3)次世代シーケンサ:DNAの配列を超並列で大量に読み取る解析装置
  
(※4)ヌクレオソーム:真核生物の染色体構造の基本構成単位で、4種類のヒストンを2分子ずつ含むタンパク質複合体に約150塩基対のDNAが巻き付いた構造
  
(※5)クロマチン免疫沈降シーケンス法(ChIP-seq):染色体を細断片化した上で、目的とするタンパク質の抗体を利用してそのタンパク質を含む断片を濃縮(免疫沈降)し、そこに回収されたDNAの配列を次世代シーケンサで解析することによって、そのタンパク質の結合部位を網羅的に明らかにする方法
 
■論文名
  “DMS-seq for in vivo genome-wide mapping of protein-DNA interactions and nucleosome centers”
(生体内のタンパク質-DNA相互作用とヌクレオソーム中心をゲノムワイドにマッピングするDMS-seq法)
雑誌名:Cell Reports

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