2024.10.04
人工膝関節置換術後の痛み・機能・違和感を改善する脚形状を発見 ~生まれながらの脚形状を個別に再現することで更なる成績向上が期待~(大学病院整形外科学教室 小西 俊己医員、整形外科学分野 濵井 敏准教授)
ポイント
- 人工膝関節全置換術 (TKA) は従来、脚を真っ直ぐにすることを一律の目標としていたが、これでは個々の生まれながらの脚の形状と一致しない場合がある。
- 生まれながらの脚形状を維持されているか否かが、術後の痛み・機能・違和感に及ぼす影響を検討した報告はない。
- TKA 後に生まれながらの脚形状を維持し、関節面の非生理的な傾斜を避けることで、痛み・機能・違和感が 10%以上も改善されることを明らかにした。
- 患者ごとの脚形状に応じた術前計画にロボット支援技術を加えることで、TKA の術後成績が更に向上することが期待される。
概要
人工膝関節全置換術 (TKA) は、変形性膝関節症*1に対して行われる術式で、良好な長期成績が報告されていますが、術後の満足度は約 80%とも報告されています。従来 TKA は、膝関節への荷重バランスをとるために、股関節、膝関節、足関節の中心が一直線に並ぶ真っ直ぐな脚を、一律に目標としてきました。しかし、これは必ずしも患者さんの生まれながらの脚の形状に一致するとは限らず、術後の患者さんの満足度に影響を与える可能性がありました。生まれながらの膝形状を予測するための分類として、CPAK (Coronal Plane Alignment of the Knee) 分類が近年 MacDessi らにより提唱されました。
九州大学病院整形外科学教室の小西 俊己医員(医学系学府博士課程3年)および大学院医学研究院 濵井 敏准教授らの膝関節バイオメカニクス研究グループは、当院で TKA の手術を受けられた患者さんを対象に、術前後のレントゲン画像による CPAK 分類の評価および術後のアンケート調査を行い、術後に①生まれながらの脚の形状(O 脚・真っ直ぐ・X 脚)が変わらないこと、②関節面の非生理的な傾斜(外方)を避けることで、痛み・機能・違和感に関するスコアが従来よりも 10%以上も改善することを明らかにしました。今回の発見を基に、患者さんごとの脚形状に応じた術前計画を立て、ロボット支援技術を用いた正確な手術を行うことで、TKA の更なる成績向上に役立つことが期待されています。
本研究成果は英国の雑誌 The Bone & Joint Journal に 2024年10月1日に掲載されました。
研究の背景と経緯
生まれながらの脚の形状は人によって異なり、真っ直ぐな方もいれば、O 脚や X 脚の方もいます。特に日本人では O 脚の方が多いとされています。
人工膝関節置換術 (TKA) は、20年間後に再手術を行っていない患者さんの割合が 98%と長期生存率が良好な一方で、満足度は約 80%程度であり、更なる改善のために近年様々な工夫が行われてきました。従来は膝関節への荷重のバランスをとるために、股関節、膝関節、足関節の中心が一直線に並ぶことを目標とするメカニカルアライメント法が主流でした。近年では術前の脚形状を考慮して、大きく変えないようにすることを目標とするキネマティックアライメント法も行われていますが、術後の痛みや機能、違和感に関する臨床成績は未だ議論の途上にあります。
脚形状の評価は軟骨の摩耗の影響も含めて従来は行われていましたが、この評価では生まれながらの脚形状を正確に評価できていませんでした。2021年に MacDessi らにより提唱された Coronal Plane Alignment of the Knee (CPAK) 分類は、レントゲン画像から計測される値をもとに、生まれながらの脚の形状を予測するための分類です。①O 脚・真っ直ぐ・X 脚のいずれかと、②地面に対する関節面の傾きが内方・水平・外方のいずれか、によって I から IX の表現型に分類されます。この分類を用いて、変形性膝関節症になる前の脚形状を推定することで、TKA 後の目標として設定することが可能になりました。しかし、術前後の CPAK 分類が術後の痛みや機能などの患者立脚型アウトカムに及ぼす影響に関しては、これまでに報告がありませんでした。
研究の内容と成果
2013年から 2019年の間に当院で変形性膝関節症に対して TKA を行った患者さんに、術前後のレントゲン画像の評価と、現在の痛みや機能、違和感などを質問するアンケート調査を行いました。
231人(284膝関節)の患者さんから返信があり、この患者さん方を対象として術前・術後の CPAK 分類を評価しました。患者背景(年齢、性別、BMI、左右、術後経過期間)、機種、術後の CPAK 分類および術前後の CPAK 分類の変化を因子として多変量解析を行い、これらが痛み・機能、違和感などに及ぼす影響を調査しました。この結果、術後に①術前と脚の形状(O 脚・真っ直ぐ・X 脚)が変わらないこと(図 1、2)、②関節面の外方傾斜を避けること(図 3)、によって日常生活における痛み・機能に関するスコア、違和感に関するスコアがそれぞれ10%以上も良好でした。
この結果から術前に CPAK 分類を用いて変形性膝関節症になる前の膝形状を予測し、これに応じて 患者さんごとの目標を定め、正確な手術を行うことで更なる成績向上に繋がると考えられます。
今後の展開
今後の展開としては、今回得られた結果を基に、術前計画として CPAK 分類を用いて患者さんごとに生まれながらの脚形状を目標として定め、当院で導入されているロボット支援技術を用いて、術前計画を高精度に再現する TKA を実際に行っています。
参考図
用語解説
- *1 変形性膝関節症
- 加齢に伴う関節軟骨の摩耗や力学的な負荷が作用することで発生する疾患で、膝関節の痛みや腫れ、動かしにくさを特徴とし、日本人では約800万人が症状を有しているとされている。
謝辞
本研究は緒方記念科学振興財団、一般財団法人 医療・介護・教育研究財団の助成を受けたものです。
論文情報
- 掲載誌:
- The Bone & Joint Journal
- タイトル:
- Pre-and postoperative Coronal Plane Alignment of the Knee (CPAK) Classification and its Impact on Clinical Outcomes in Total Knee Arthroplasty
- 著者名:
- Toshiki Konishi, Satoshi Hamai, Hidetoshi Tsushima, Shinya Kawahara, Yukio Akasaki, Satoshi Yamate, Shuhei Ayukawa, Yasuharu Nakashima
- DOI:
- 10.1302/0301-620X.106B10.BJJ-2023-1425.R1
お問合せ先
九州大学病院 整形外科学教室 医員
九州大学 大学院医学系学府 博士課程3年
小西 俊己(こにし としき)
konishi.toshiki.532(at)m.kyushu-u.ac.jp