研究情報

2026.01.13

ミトコンドリア分裂を促進する新しい因子を発見(細胞生理学分野 神吉 智丈教授、古川 健太郎助教)

ポイント

  • ミトコンドリアは分裂と融合を繰り返すことで機能を維持しています。そのため、ミトコンドリア分裂の仕組みを理解することは、医学・生命科学の観点から非常に重要です。
  • これまで、ミトコンドリア分裂にはミトコンドリアの内側から作用する因子「マイトフィッシン*1 Atg44」が必須であることが知られていました。しかし、Atg44 だけで分裂が成立するのか、あるいは外側から作用する因子が存在するのかは明らかになっていませんでした。
  • 本研究では、Atg44 と類似した機能を持ち、ミトコンドリアの外側から分裂を促進する新たな因子として「マイトフィッシン2 (Mfi2)」を発見しました。
  • ミトコンドリアの分裂機構の解明は、その異常によって生じる様々な疾患の病態解明や治療法開発につながるものと期待されます。

概要

不要な、または損傷したミトコンドリアを選択的に除去するマイトファジーは、ミトコンドリアの品質管理のための重要な仕組みです。近年、私たちはミトコンドリア内部 (膜間腔スペース*2) に局在するマイトフィッシン Atg44 を発見し、これが脂質膜に直接作用して分裂を促進する機能を持ち、また、マイトファジーが起こる際のミトコンドリア分裂にも必須の因子であることを明らかにしました。しかし、ミトコンドリア分裂が Atg44 のみで十分に成立するのか、あるいは外側から作用する因子が存在するのかについては不明のままでした。

九州大学大学院医学研究院の古川健太郎助教、神吉智丈教授、微生物化学研究所の丸山達朗上級研究員、横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科の境祐二特任准教授、新潟大学大学院医歯学総合研究科の福田智行准教授、北海道大学遺伝子病制御研究所の野田展生教授らの研究グループは、ミトコンドリア外膜に局在し、Atg44 と似た膜切断活性を持つ新しい因子としてマイトフィッシン2 (Mfi2) を発見しました。Mfi2 は Atg44 と同様にマイトファジーにおいて重要な役割を果たし、さらにダイナミン様タンパク質*3Dnm1 とは独立してミトコンドリアの分裂を促進することが明らかとなりました。本研究により、マイトファジーに伴うミトコンドリア分裂には、ミトコンドリアの内側と外側に局在する2種類のマイトフィッシンが必要であるという新しいモデルを提唱しました。

今回の研究成果は、ミトコンドリア分裂の研究におけるブレイクスルーとなるだけでなく、ミトコンドリア異常に起因する様々な疾患の病態解明や治療法開発への貢献が期待されます。

本研究成果は、国際学術誌 EMBO Reports に2026年1月13日 (火)  (日本時間) に掲載されました。

研究の背景と経緯

ミトコンドリアはエネルギー産生を含む生命活動の根幹を担う重要な細胞小器官です。古くなった、あるいは異常が生じたミトコンドリアはオートファジー*4 (ミトコンドリアの場合はマイトファジーと呼ばれる) によって分解されます。ところが、通常のミトコンドリアはサイズが大きいため、マイトファジーで分解される前に分裂して小さくなる必要があります。従来、この分裂はダイナミン様タンパク質 Dnm1 (哺乳類では Drp1) が担うと考えられてきましたが、これらが欠損してもマイトファジーが進行することから、別の分裂機構の存在が示唆されていました。

本研究グループは、酵母*5を用いた研究により、2023年にミトコンドリア内部の膜間腔スペースで働く分裂因子としてマイトフィッシン Atg44 を発見し、これがマイトファジーの際の分裂に不可欠であることを明らかにしました。しかしながら、Atg44 だけで分裂が完了するのか、あるいは、ミトコンドリアの外側から働く因子が存在するのかは不明のままでした。

研究の内容と成果

本研究グループは、ミトコンドリアに存在する機能未知の Mco12 という小さなタンパク質に着目しました。Mco12 はマイトファジーに部分的に必要であるだけではなく、Atg44 と類似した構造やミトコンドリア分裂活性を持ち、さらには後述する脂質膜切断活性を持つことを見いだしました。これらの特徴にもとづき、Mco12 を「マイトフィッシン2 (Mfi2)」と命名しました。

精製 Mfi2 を用いた試験管内実験により、Mfi2 は Atg44 と同様に脂質膜に直接結合し、切断する活性を持つことが分かりました。Mfi2 は特に、ミトコンドリア特有の脂質であるカルジオリピン*6を含む膜に対して強く作用するという特徴を示しました。また、粗視化分子動力学シミュレーション*7やカルジオリピン合成酵素欠損株を用いた解析により、Mfi2 がカルジオリピンを含む膜と安定して結合することが確認されました。

さらに、Mfi2 と Dnm1 の両方を欠損した酵母ではマイトファジーが著しく低下し、その原因がミトコンドリア分裂不全であることが分かりました。すなわち、Mfi2 と Dnm1 はともにミトコンドリアの外側から分裂を促進しており、両者が独立に機能することでマイトファジーの際の分裂効率が高まることが示唆されました。このことは、Dnm1 を単独で欠損させてもマイトファジーが阻害されないという事実とも整合します。

以上の結果から、本研究グループは、ミトコンドリア分裂には2種類のマイトフィッシンおよび Dnm1 が重要な役割を果たし、内外双方からミトコンドリアを切断するという新しいモデルを提唱しました。この仕組みは、マイトファジーに特有の分裂機構の理解を大きく前進させる成果です。

今後の展開

現在、マイトフィッシンは酵母などの真菌類や一部の植物でしか見つかっていませんが、マイトファジーの研究結果から、哺乳類でもその存在が示唆されています。今後は哺乳類におけるマイトフィッシンに相当する因子を特定することが重要課題の一つです。ミトコンドリアの形態はその機能と密接に関連しており、多くのミトコンドリア関連疾患で形態異常が認められています。特に、哺乳類におけるダイナミン様タンパク質 Drp1 の変異は神経変性疾患や心疾患など様々な病態を引き起こすことが知られています。マイトフィッシンはミトコンドリア形態制御の重要因子であることから、その理解が進むことで、形態異常を伴う多様な疾患の病態解明や新たな治療法の開発に寄与できると期待されます。

参考図

【図1】マイトファジー誘導時におけるミトコンドリア分裂モデル

野生株では、ミトコンドリアの内側からの Atg44 による働きと外側からの Mfi2 もしくは Dnm1 による働きで分裂が起こる。一方、これらの分裂因子欠損株ではミトコンドリアの分裂不全のため、マイトファジーは阻害される。

用語解説

(※1) マイトフィッシン
ミトコンドリアの膜に直接作用し、膜を切断することでミトコンドリア分裂を促進するタンパク質です。Atg44 および Mfi2 は、このような性質を持つことから「マイトフィッシン (mitofissin: mitochondrial fission protein)」と総称されます。
(※2) 膜間腔スペース
ミトコンドリアは、外膜と内膜の二重膜構造を持ち、その間の領域である膜間腔スペース、内膜に囲まれたマトリクス、内膜のひだ状構造であるクリステから構成されています。Atg44 は膜間腔スペースに局在し、ミトコンドリアの内側から分裂を促進します。一方、本研究で発見した Mfi2 は外膜に局在し、外側から分裂に関与する点が異なります。
(※3) ダイナミン様タンパク質
ミトコンドリアを外側から取り囲むようにリング状に集合し、GTP の加水分解エネルギーを利用して分裂を促進するタンパク質です。酵母では Dnm1、哺乳類では Drp1 が代表的な因子として知られています。
(※4) オートファジー
細胞が自らの成分を分解・再利用する仕組みで、新しい膜が形成されて内部に細胞成分を取り込み、分解酵素によってアミノ酸などの小さな分子に分解されます。ミトコンドリアや小胞体などの細胞小器官の量や質を調節する役割も担っています。ミトコンドリアが対象となる場合はマイトファジーと呼ばれています。
(※5) 酵母
パンや酒づくりに利用される単細胞の微生物で、ヒトを含む高等生物と細胞の基本的な仕組みを共有しています。遺伝子操作が容易なため、生命科学研究のモデル生物として広く利用されています。オートファジー・細胞周期・小胞輸送など、ノーベル賞につながった多くの研究に貢献してきました。
(※6) カルジオリピン
ミトコンドリアに特有に多く含まれる脂質で、ミトコンドリアの機能や構造の維持に重要な役割を持ちます。特に内膜に豊富ですが、分裂やストレス応答の際には外膜にも分布が変化することが知られています。Mfi2 はこのカルジオリピンを含む膜に強く結合する特性を示しました。
(※7) 粗視化分子動力学シミュレーション
タンパク質や脂質などの分子を「少し粗い粒子」として扱い、コンピューター上でその動きを再現するシミュレーション手法です。詳細な原子構造すべてを計算するより高速に大規模な挙動を調べることができます。本研究では、Mfi2 がカルジオリピンを含む膜と安定して結合する性質を検証するために用いました。

謝辞

本研究は、JSPS 科研費 (JP23H04255, JP23K05715, JP23K20044, JP23K23878, JP24H00060, JP24H02274, JP24K01717, JP24K01980, JP24K09373, JP25H00966, JP25H01101, JP25H01320, JP25H01321, JP25K09559, JP25K21747)、日本医療研究開発機構 AMED-CREST (JP23gm1710006)、科学技術振興機構 JST-CREST (JPMJCR20E3)、武田科学振興財団、発酵研究所、野田産業科学研究所の助成によって行われました。

論文情報

掲載誌:
EMBO Reports
タイトル:
Mitochondrial fission during mitophagy requires both inner and outer mitofissins
著者名:
Kentaro Furukawa*, Tatsuro Maruyama, Yuji Sakai, Shun-ichi Yamashita, Keiichi Inoue, Tomoyuki Fukuda, Nobuo N. Noda, Tomotake Kanki* (*責任著者)
DOI:
10.1038/s44319-025-00689-x

お問合せ先

九州大学 大学院医学研究院 細胞生理学分野 助教

新潟大学 大学院医歯学総合研究科 客員研究員

古川 健太郎(フルカワ ケンタロウ)

TEL:092-642-6089 FAX:092-642-6093 E-Mail:furukawa.kentaro.828(at)m.kyushu-u.ac.jp

九州大学 大学院医学研究院 細胞生理学分野 教授

新潟大学 大学院医歯学総合研究科 客員教授

神吉 智丈(カンキ トモタケ)

TEL:092-642-6085 FAX:092-642-6093 E-Mail:kanki.tomotake.114(at)m.kyushu-u.ac.jp

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